遠い太鼓
いまどきの「常識」とか「正しい戦争」は本当にあるのかとか、高校生からわかる 日本国憲法の論点みたいな本ばっかり読んでたら「たまには小説家の文章が読みたい~☆彡」って気分になってきました。
なので最近、本棚から小説やら小説家の方のエッセイやらを引っ張り出してきて読んでマス♪
好きな小説家の文章を読むことは、好きな音楽を聴くことと似ている気がする(^.^)
そんな風にして、久しぶりに
を読みました♪
という訳で今回は、『遠い太鼓』から、引用させていただきます。。。
『世の中にはどうしてこんなにいっぱい軍隊があるのだろう、と僕は思う。
ちょっと前に、ギリシャとトルコとの国境で小競り合いがあり、ギリシャ兵が一人とトルコ兵が二人死んだ。僕は新聞でその記事を読んだ。つまらない理由による発砲事件だった。実際のところ、発砲する必要なんて何もなかったのだ。誰かがちょっと線のこちら側に入ったとか、何か言って挑発したとか、その程度のことだった。でも誰かが発砲し、相手がそれに応射した。自動小銃の弾丸がいきかった。そして三人の兵隊が死んだ。ギリシャ側がトルコ兵が咲きに発砲したと言い、トルコ側はギリシャ兵が先に発砲したと主張している。そしてどちらの国民も自国の発表を信用している。
新聞には死んだギリシャ兵の写真が大きく載っていた(トルコの新聞にはトルコ兵の写真が載っていたはずだ、もちろん)。十八か十九のハンサムな若者だった。彼は軍服を着てにっこりと笑っていた。その顔は僕がフェリーボートでよく見掛ける若い兵隊を思い出させた。彼はいったい何のために死んだのだろう?
死ぬのはいつも若者なのだ。彼らはまだ何が何だかよくわからないうちにそんな風にして死んでいく。僕はもう若くはない。そしていろんな国のいろん町を旅した。いろんな人間に会った。いろんな楽しい思いもしたし、いろんな嫌な目にもあった。そしてこう思う。たとえどのような理由があるにせよ、人と人が殺しあうというのはやはり馬鹿げていると。』